生まれたときから一緒。それでも違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、チョコレートとかほしいって思わないの?」

 

ある冬の日、寒い中家でコタツ籠もりをしている双子。その弟に言われ、兄はひどく動揺する。この18年生きてきた中でこのバレンタインという日は、意識せずとも年上年下かまわずチョコレートをもらうことがふつうだったので、そういう欲望はわかない。

 

「青波はどうなんだよ、そっちが気になる」

「ええ~?僕に聞くの?」

「じゃあ先にいってやるよ、俺は、全然ほしくない。毎年たくさんもらうから」

「当たり前のような言い方だね…」

 

馬鹿正直に言ったことに対し、弟は少し引いた顔でこちらを見る。ついでにコタツの中で足を蹴ってきた。これの何が悪いんだ。

 

「いって。蹴るなコラ…ほら俺は言っただろ?早く。青波の番」

「…急かさないでよ鳴門」

 

 

いや先に急かして聞いてきたのお前だろ。という言葉をのんで発言するのを待つ。弟は昔からマイペースなところがある。本当に一緒に生まれてきたのかさえ思う節もある。

 

 

「僕はね、たまーにほしいって思うときがあるんだ…例えば、野球部のみんなとか」

 

「…は?」

 

野球部は、この双子の入っている部活である。主将とは中学生からの同級生で、高校に入り一緒に活動するようになった。

 

中学時代の双子と言えば喧嘩三昧の毎日。幸い成績や学校生活に大きな支障が出るほどではなかったが、それでも放課後はたくさんの人間と殴り、蹴り、頭をぶつけ血を流してきた。

 

 

高校に入学し、あいつが誘ってこなかったら喧嘩生活から抜け出せずにいただろう。正直野球なんてやるつもりがなかったのが兄の方だった。喧嘩を売られる回数が多かった弟はアッという間に”野球部”に馴染んでいった。

 

「あいつらから?料理が駄目な奴が多いじゃねーか。俺やお前も含めて」

「そうなんだけど!いや僕チョコぐらい作れるよ、お返しでいつも作ってるし」

「作ってるのチョコじゃねえじゃんクッキーじゃん。お前手先が器用でもいつも塩辛いか甘いかじゃねえか」

「そうだけども!」

 

 

ぎゃあぎゃあと言い合いになる。ついでにコタツの中でも第二試合で蹴り合いが始まる。弟の蹴りに耐えながら兄はふっと思い出す。あれ、こいつそういえばと。

 

 

「親しい奴だからこそほしいって言うことか?」

 

「!」

 

弟の猛攻が止まる。弟の足技はすべて中学生の時からの癖で、威力は兄もおののくほど。防御がもう少しで崩れるところだったので、兄はすこし胸をなで下ろした。

 

「親しい奴、か」

 

 

あんなにすさんでいた弟がこんなにもうれしそうな顔をしている。そして他人の者をほしがる。弟の気持ちを直接聞くこともはじめてな兄は少し戸惑い、こんなことを聞く。

 

 

「家族以外でいるって言うの、はじめて聞いたけど…部活始めたときから思ってたのか?」

 

「最初は」

 

言葉が詰まったのか、弟の目が泳ぐ。そして意を決し多様なそぶりを見せ、口を開く。

 

 

「最初はそうでもなかったんだ。平吉、あいつが誘ってきたときは何でおれがって思ったし。でもね、あんな過去を知ってる平吉はもちろん部活のみんなはこんなおれを受け入れてくれたんだよ?喧嘩して鳴門と2人で中学3年間過ごして、3年の時なんてクラスにもなじめてなかったおれを」

 

弟の一人称が剥がれた。少しでも昔の自分を抑えておくために使ってたモノが取れたと言うことは。そのまま見つめてると、あいつは顔を落として言った。

 

「だから…大事にしたくなったのもある。中学時代は最悪だったの鳴門も覚えているでしょ?誰も話なんてしに来ない。来るとしても喧嘩のことで怖がっちゃってるクラスメイトでクラス委員長。…おれ、高校から野球部に入ったときそんな出来事から逃れたかったからなるべく良い子でいた。特に先輩の目が怖かったしだから無理して変わろうともした。…まぁ平吉には見抜かれてたし今は2年生だけど全部過去話しちゃったしだからそんなの意味ないんだけど、それでも」

「…」

 

止まらなくなってしまったのか今まで思っていた言葉を落とす。やけに青波にしては深いところから言葉を汲み上げている。

 

 

嗚呼、こいつは。

 

 

「こんなことは本人にはいえないけどね…」

「…青波、そんだったらあいつらに驚かせてやんね?」

 

 

 

兄の言葉が、これ以上言わなくて良いと弟の言葉を遮った。弟はびっくりした様子でこちらを見ている。この少し重たい空気をどうにかしたかったのが一番の理由だが、弟がこんなにも仲間を大事にしたいと思うようになっていたことに少し胸が熱くなったのもあった。

 

 

 

 

だが、自分の心の中で”もやっ”と黒い感情もこみ上げてきていたのもあったのだ。俺はあんなにもあいつらのことをうっとうしいと思っていたのに。あんなにもほっといてほしいと思っていたのに。俺の元を離れてあいつらの方に行ってたなんて。

 

 

 

 

 

やっぱり、一緒でも違う感情を持ち合わせてんだな。

 

 

 

 

 

 

しばらくして、弟が口を開く。

 

「…驚かすって一体何を?」

「お前の器用なその手と俺の正確な材料の分量で旨いモノを作って食わせるんだ。今までは一緒にしなかったし」

「面白そうなこと言うけど鳴門がそれをいうってことは相当悪いことを考えてるよね」

「気のせいなのでは?必ず俺がそう考えてるとはいってねぇし~」

「は~?おれの考えの通りだったら一週間コーラおごれよ」

「はいはい、絶対違うから」

 

 

弟がコタツから抜け出し、兄を呼ぶ。それに応えるように兄もコタツから出る。

 

馴染んでいった理由が今わかったことで、双子の表情が少しすっきりしたように見える。兄は兄で、弟は弟で。

 

 

 

兄弟共同での友チョコ作りが、幕を開けた。