僕、酉津真弥(とりつしんや)はこの春から鞍兜(くらかぶ)高校の2年に進級する。1年のあまり好きではなかったクラスから解放され内心ホッとしている…
今日から新たな生活が始まる…はずだった。
これは、1年間の中にある四季にまつわる僕の体験した不思議なお話。
第1話 サクラノカミイロ
ワイワイ…
ガヤガヤ…
「…」
2年5組、これから1年間過ごすクラスだ。1年の時のクラスメイトが少し混ざっているが、ほとんどは話したことがない人らだ。基本的に僕は自分から話しかけたりしない。
「ほら、席に着きなさい!」
このクラスの担任になった原澤先生が教室に入ってきた。女性の先生であだ名は『ざわはらちゃん』だ。先生に言われ、皆それぞれの席に座る。偶然にも僕の席の隣には誰も座ってない。
「体育館で校長先生が言われたように、この新学期始め、2年5組に転校生が来ましたーパチパチィ~入って?」
「はい」
転入生?そんな紹介始業式であったっけ?僕はそんなことを思いながら教室に入ってくる転校生を見た。瞬間、僕は目を見開いてびっくりした。
「はい、今日から2年5組の一員である春野さんです!自己紹介してね♪」
「春野杏子(はるのあんず)です。この髪の毛の色は地毛なので、不良だと思わないでほしいです、よろしくお願いします!」
春野杏子と言う少女は淡く薄い桃色の髪の毛に鮮やかな桃色の目をしており、その髪の毛をポニーテールにしていた。笑顔はまるで満開の桜のようだった。
「じゃあ春野さんは、に…にし…づ、君の」
「"とりつ"です」
「そうなの?漢字難しいわねー君の名字…その酉津君の隣の空いている席に着いて」
「わかりました」
原澤先生の指図で春野さんは僕の隣に座った。
「酉津って誰だっけ」
「知らねぇ」
「すごくおとなしいって聞いたことある私」
「すごく影が薄いの間違いじゃないの?(笑)」
周りがざわつく。1年からこんな感じだったからなにも思わない。ふう、とため息を一つ吐いて先生に視線を戻そうとしたら、隣から声をかけられた。
「春野杏子です。一学期はよろしくねっ」
「あ…僕は酉津真弥…」
「酉津君よろしく♪」
ん?一学期はよろしくってどういう意味だろう…春野さんは席替えのことを予想して言ったのだろうか…。この鞍兜高校に席替えというイベントはない。1年間ずっと同じ席で過ごすことになるのだ。
「じゃあホームルーム始めるわよ!!」
「腹へったーっ」
「部活いこ!!」
今日は午前中で終わりだ。僕はさっさと支度し下駄箱へ向かおうと教室をでた。そのときに背中を叩かれた。
ばしっ
「いたっ…て春野さん?」
「酉津君、一緒に帰っても大丈夫かな?」
先ほどまで女子に囲まれていた春野さんが僕のすぐ隣に立っていた。
「なんで僕?」
「一人だったからよ、寂しいじゃん?一人で帰るって」
「…気にしなくていいよ、情けや同情は要らないから。じゃあ」
「あっ…」
僕は春野さんに断りを入れて教室を後にした。
「なんなの?あいつ…」
「ありえない」
「断るならもう少し言葉を選べっつの!!」
後ろから女子の批判の声が聞こえる。そんな中、春野さんはきょとんとしていた。
「まだ言えてないことあったのに…」
「ただいまー」
「あら真弥、おかえり~」
玄関の近くにある階段を駆け上がった僕は、上りきった階段の近くに段ボール箱がひとつあることに疑問を持った。
「え…なんだろ、この段ボール…」
よくみようとしたらふわっと桜の香りが漂った。途端に玄関が開く音がした。
「父さんかな?いや父さんにしては帰りが早すぎるけど…」
僕の家族は3人で、僕は一人っ子だ。なのに僕と同じぐらいの時間で帰ってくる人なんていないはずだった。声を聞くまでは…。
「ただいま帰りましたー」
「杏子ちゃんおかえり~、どうだった?」
「皆さん優しくて、いい学校です」
な、なんで春野さんがうちに帰ってきてるんだ!?
「全く、真弥には事情を伝えてくれたかしら?」
「いえ…酉津君先に帰ってしまって言いそびれました」
「真弥!!降りといで!!」
階段の下から母の声が聞こえる。声の感じからして怒っている。
「わかったからそんなに怒らないでくれよ…」
そう答え、僕は階段を降りた。
「はぁ!?下宿!?」
「そうよ、杏子ちゃん上京って形らしいの」
「だからってなんでうちなんだよ!」
「原澤先生と決めたことなのよ…」
どうやら母は僕に秘密でこの件を進めていたようだ。
「酉津君には迷惑かけないように住むから・・・ね?」
突然春野さんが僕の手を握って正面からお願いをしてきた。桃色の目が僕をじっと見つめてくる。
その時僕はふと思った…
彼女の髪が桜色になり、
半透明になったことを—…