少し歩くと事務室があり、そこからさらに少し歩いたところに保健室がある。扉のガラスは割れており、少し中がのぞけるようになっている。ゆっくりと眺めながら歩いていると、阿賀谷が肩を叩いてきた。

 

「なんか見えた?」

「何も見えねぇよ。お前が懐中電灯持ってて足しか照らしてないから真っ暗だわ」

「おーいおい、何のためにスマホ持ってんだよ俊くん…こういうときのために、ライト機能を使うんだよ」

 

 そういって阿賀谷は自身のスマートフォンをポケットから取り出し、ライトを付ける。

 

「や、お前のその手に収まってる懐中電灯は飾りかなんかか?」

「だって俊は懐中電灯持ってないじゃん。俺のはちゃんと機能してますぅー!」

 

 ライトの付いたスマートフォンをまるでサイリウムのように振る阿賀谷。光が目に入ってとても痛い。目の前がチカチカして視界がもっと悪くなる。

 

「…阿賀谷やめろ」

「ほーい」

 

 手でスマホを押さえると、彼は素直に手を下ろした。こういうときはちゃんと話を聞いてくれるんだよな…と考えつつ、俺は自分のスマートフォンのライトを付けた。

 

「さんきゅな、阿賀谷」

「いいってことよ」

 

 

顔を見合わせて再び足を出そうとして、ふと上を見上げると校長室の表札が見えた。

 

「着いたな」

 

 

 開けると、その勢いで少し積もっていた砂埃が舞った。

 

「ひっでぇ部屋…」

「そりゃあんだけ時間があくんだから…汚くなるのは当たり前だろ?」

「そんなもんか」

 

 そう言いつつ、俺たちは校長室に入る。俺はとっさにポケットからハンカチを取り出し、口に当てる。阿賀谷も同じタイミングで腕を口に当てた。

 

 

「で?鏡ってどこにあるんだ?」

「んっと…あれ?もしかして…鏡無い?」

 

 校長室内をしっかりと見回すも、鏡は見つからない。中は、所々雑草が顔をのぞかせて、のびのびと育っているように見える。机が無い時点でもうこの部屋にはほかに何も無いと言うことは明白だった。それどころか、ここの部屋は窓ガラスも全部砕け散っているようにみえる。

 

「…わかんないって事か」

「残念だったな阿賀谷。ほら戻るぞ」

「ちえー、この話は嘘ってことかよ~」

「愚痴は戻っている最中でもきいてやるから、ほら動いた動いた」

「うえ~~~~」

 

 俺は、これ以上無駄に時間を食わないようにするため、残念そうな表情をしている阿賀谷の体を引っ張って入り口へ誘導する。

 

 そんなときだった。

 

 

『……で、こ……と…んだ…』

 

「―――――――…え?」

 

 

 俺は、声に反応して立ち止まった。それに気づいた阿賀谷も、後ろを向いて止まる。

 

「?どした?俊」

「…なんか、知らない声が聞こえた…」

「声?え?いつ?」

「つい、さっき………え、聞こえなかった?」

「おう…なにも」

 

 その声は、俺にしか聞こえなかったようだ。なぜ…。固まってしまう俺に、阿賀谷が俺の肩を叩く。

 

「…もしかして、さっき何も無かったからって俺を慰めようとしてくれてんのか?はは!こんなことでヘコむほど俺は弱くないよ!さんきゅーな!」

「あ。え、いや…そんなわけ」

「ここで立ち止まるわけには行かないよな!うん!よし、いったん須見田達のところに戻るぞ!」

「あっ、おい!…くそ…」

 

 阿賀谷はそのまま懐中電灯を振り回して生徒玄関の方へと走って戻って行ってしまった。少し、校長室の入り口前でぼーっと考えてしまったが、すぐに顔を振って彼を後を追うように、とめていた足を動かした。

 

 

 

 

 だけど、やっぱり引っかかったんだ。あの声がなぜ、俺にしか聞こえなかったのだろうか。あと、なんて言っていたんだろう…。

 

 

 

 

 生徒玄関前に戻ると、落ち着いたのか、顔色が少し良くなった須見田と、側ですこし焦った表情をしている和原がこちらを見ていた。そして一足先に…。

 

 

 

「…あれ?」

 

 

 

 

 そこには、阿賀谷の姿は見当たらなかった。

 俺は二人の元に駆け寄り、声をかける。

 

 

「阿賀谷、戻っていないのか?」

「俊くん、阿賀谷くんそのまま二階に上がって行っちゃったんだ…どうしよ…」

「はァ?」

「俺たちの言葉に一切耳を貸さずに通り過ぎちまったんだ」

「まじかよ…」

 

 俺たちは顔を見合わせ、それぞれ大きく体の中に溜まっていた空気を、ゆっくりと重たく吐き出した。アイツはいつもそうだった。授業中では無かったが、体育祭や文化祭、休みの時なんかではよくあったこと。彼の中で何かいいことを思いついたら周りなんて目もくれず、考えたことを実行しようとすること。高校時代まで一緒だった須見田は、よく頭を抱えていたんだとか。

 

 

 

「どこ行ったかわかるか?」

「あの先にある階段の方だ。多分二階だ」

「…二階に来いって事なんだろうな…校長室からここに戻っているその短い間に、一体何を思いついたんだか」

「昔から阿賀谷君って頭の回転が速くてすごいよね…」

「ほんとにな…まぁそこがいいとこでもありわるいとこでもある…」

 

 それは褒めなのか?という言葉を頭に押し込み、俺は二人に向き直った。

 

「とりあえず須見田も動けるようになったことだし、二階行くか…」

「そうだね」

 

 調子が戻ってきた須見田とやっと動ける事でわくわくしている和原と一緒に、俺たちは二階へと続く階段へと歩いて行った。一段目に足をかけたその時だった。

 

 

 

ぐにゃり

 

 

 

目の前が大きく歪んだ。慌てて俺は近くの手すりをつかむ。他のふたりも俺と同様の現象が起きたのか、階段に座り込んでいた。目の前がブラウン管のテレビのようになっている。紅くなったり、緑色になったり、チカチカしたり…。

 

 

 顔の見えない、小柄な青年の体がバラバラになって見えたり―――――…。

 

 

 しばらくすると、視界がじわじわと階段をとらえられるようになった。目の奥がまだツンとするが、先ほどよりかはマシになった。

 

「…っふたりとも、大、丈夫か…?」

「ぼ、僕は、大丈夫。須見田くんは?」

「俺も…なんとか」

 

無事を確認し合うと、そのままゆっくりと二階へと向かう。トントントン、と音がバラバラに響き、上の階へ存在を示す。踊り場を経て二階へ到着した俺たちは、阿賀谷が校舎に入る前にいっていたことを思い出した。

 

「俊、理科室ってさ、二階にあったか?」

「あったよ」

「確か…理科室にいる男子学生が大きな犬を飼ってる…だったっけ。真相を暴くために一足先に行っちゃったんだろうな…」

「や、どうだろう…阿賀谷なら何か企んでそうだなーとしか…。とりあえず俊も和原も行こうぜ」

 

 すっかり調子を取り戻した須見田が先の見えない廊下に向って先頭に立つ。それに和原もうなずいて続こうとする。そしてふたりはくるっと俺の方に向き直り、こういった。

 

「「僕たちを理科室まで案内してください!」」

「……………はぁ」

 

 

 

 

 俺を筆頭に、俺たちは理科室へ向かって足を運んだ。須見田から借りた懐中電灯をもって足下から左右を照らしていく。先ほどは校長室しか向わなかったのと、周りをじっくりと見ていなかったのもあったが、一階の方が蜘蛛の巣が多かったのかなという印象を持った。一階よりも二階の方が比較的にきれいである…。

 

 道中、つんと鼻に刺す匂いを感じる。薬品だろうか。いや、旧校舎はとうの昔に閉鎖されており、危険薬物などはすべて二代目校舎…今の三代目校舎に移動しているはずである。ならこの匂いは一体…。

 

 

そう考えながら顔を前に向けると、奥の方で細い光が漏れているのを見つけた。

 

「お、あそこが理科室だ。準備室がここにあるし」

「この先にいるのは阿賀谷くんかな…」

「絶対そうだって。なにかあるはず」

 

 各々思ったことを小さな声で口にする。そして、下に和原、真ん中に俺、上に須見田の順で縦に並び、入り口の近くに身を潜めてそっと中をのぞく。少し体を乗り出して見ると。

 

 

 

 

 そこにいたのは。

 

 

 

 

教室の奥で懐中電灯を持って固まっている阿賀谷と。

 

 

 

 その手前に黒くて大きい動物を引き連れた、この地域では見たことの無い制服を身につけている、髪の長い青年だった。

 

 

「…」

 

 

 生唾を飲み込んだ瞬間、阿賀谷が口を開く。

 

 

 

 

 

 

「お前、陽灯(ハルト)か?」

 

 

 

え?

 

 

 阿賀谷の発言に、俺は目を見張った。

 

 

 その名は、俺の…。

 

 

 よく顔を見ようと身を乗り出す。俺の頭で視界が狭まったため、須見田も負けじと身を乗り出した。

 

 

「あ。」

 

 

 小さな声が頭上から降ってきたかと思うと、須見田が俺の背中にのしかかり、重さに耐えられなかった俺の体が和原に当たり、それにびっくりした和原が声を上げてぺっしゃりと俺たち二人の下敷きになった。

 

「うわーーーーーっ!」

「!!」

 

 

 阿賀谷とその青年が俺たちの方を見る。少しの埃が舞って、みなが固まる。その間に和原のギブアップタップが響いていった。そして須見田がゆっくりと退いたことで俺も和原の上から退く。和原は床に突っ伏したまま二人に言葉を投げる。

 

「二人とも、重かったです」

「す、すまん」

「おう…ごめんな…和原」

 

 そんな中、阿賀谷が視線を青年に戻した。その青年は黒くて大きい動物にお座りをさせると、口を開いた。

 

「あの…」

「陽灯久しぶりだな!覚えてるか?俺のこと!」

「あ、えっと…」

「阿賀谷くん…皆あのときから容姿変わっちゃってるからわからないよ…」

 

 

ぐいぐいと話しかける阿賀谷にストップをかけたのは、ゆっくりと立ち上がった和原だった。俺もとめようとしたが、和原の方が早かった。

 

 

「あ、ごめんな陽灯。俺、阿賀谷だよ。阿賀谷奈宮(アガヤナミヤ)

「阿賀谷…」

 

 

 自己紹介されて陽灯は名前を復唱をする。俺の心の中が急にざわつく。なんと言えば良いものかわからないが、こう、もやっとしたものがあった。そんな俺を無視して二人も自己紹介をする。

 

 

「陽灯久しぶり。俺、須見田順(スミダジュン)

「須見田」

「そうそう」

「僕は和原真斗(ワバラマト)だよ。竹本くん」

「和原」

「うん、そうだよ」

 

 

 竹本は陽灯の名字だ。陽灯は、二人の分も含めて三人の名前を、まるで反芻するように口から名前を繰り返して覚えているようだった。そんな陽灯をじっと見ていたら、和原に目線を送られた。改めて自己紹介しろって事か…。

 

 

「…中学進学前振りって、いっていいか…陽灯」

 

 

 そういって陽灯の前に進む。それに気づいた陽灯は、口をとめ向き直ってくれる。あの頃から、陽灯はおとなしくなったんだろうな。小学校時代、体のどこかしらに擦り傷を作っていた彼は、年は変わらないのにより一層大人っぽくなっていた。彼らしくなくイメチェンだろうか、長い髪を丁寧に一つ結びにしている。

 

「えっと、改めて言うのなんか照れくさいけど…田中俊(タナカシュン)。また…、…」

「…?」

 

 続きの言葉を発そうとしたが、直前喉で止まる。違和感が俺を許してくれないのだろうか…。きょとんとする陽灯の目が俺の目と合ってしまう。

 

「また、よろしくなっ俺は俊でいいよ!」

 

 と、慌てて別の言葉を発し手を差し出す。この行動すごく久しぶりだな…。

 

「俊…うん、阿賀谷も須見田も和原も…またよろしく」

 

 陽灯はそう言って、へらっと笑った。その様子を見た後、阿賀谷がぐるっと陽灯の肩を持ち質問攻めを始めた。

 

「ところで陽灯!中学は一体どこに通ってたんだよ!小学校卒業してから全然この地元じゃ姿見なかったしさ!あ、あとしゃべり方とか髪型とかたたずまいとかってお前の親父さんに言われて直したのか?それとも中学デビュー?高校?大学??」

「あ、えっと…」

「阿賀谷くんっこらそんなに質問攻めしないの!竹本くん困ってるじゃんか!」

 

 ズイズイと言葉を並べる阿賀谷を体の小さい和原が制する。陽灯を阿賀谷からひっぺはなしそのまま力勝負が始まってしまった。ぱっと見互角なように見える。そんな二人を呆れるように見て、須見田がお利口にお座りしている黒い動物を見た。その動物は見られていることを理解した上で、ワン、と俺と須見田に一吠えした。犬だった。

 

「お、大きいな…そして鳴き声でか…びっくりした」

「でもこいつお利口だな~!」

「ソウタ」

「え?」

「この子の名前。ソウタっていうんだ。名前で呼んで」

 

 阿賀谷から解放された陽灯がすっと体の向きを変えて、陽灯は俺たちに話しかけてきた。犬とかこいつとか、そういう呼ばれ方なのがいやなのか、名前を強調して呼び方を強制する。

 

「お、おう。悪い…」

「ソウタって言うのか!良い名前だなあ~!!」

 

 須見田の褒めの言葉に黒い犬・ソウタはまた、ワン、と一吠え。デレデレな表情の須見田が出した手に対し…牙をむき、うなる。

 

「ええ…撫でるのだめなのか…」

「ごめん須見田…ソウタは、何でかわからないけどほ俺にしかなつかないんだ…」

 

 ソウタの様子に須見田はがっくりと肩を落とす。須見田の犬種かまわず好きは今に始まったことでは無いなと見つめ、他二人の方をちらっと見る。阿賀谷と和原の力比べは、和原の勝利で終わったみたいだった。その様子を確認した後に、陽灯は俺たちに言う。

 

 

「それはそうと、皆は何でここに?」

「それはだな…この学校で学校都市伝説を確認しようとしてきたんだ!」

 

 その問いに素早く答えたのは阿賀谷だ。そして、陽灯に懇切丁寧に目的の理由と内容を話していく。突然の大量な情報に埋もれながら、陽灯はたくさんの瞬きと相づちをしてそれを聞き入れる。俺たち三人はそんな阿賀谷をとめられない事をわかっているので特に何もせず、陽灯にドンマイと目線を送り話が終わるのを待つ。

 

「…で、この学校独自の噂もついでに調べようと思ったわけよ!」

「っそ、そういうことだったんだ…」

「お疲れ…ちなみに俺はとめたんだぞ陽灯」

「そうそう。まぁ反対したのお前だけだったよなぁ俊」

「須見田いらんこというな」

「ほんとノリ悪いよなぁ俊ってよ~」

「ノリの話は今してないだろ誤解を生むような言い方をすんじゃない阿賀谷」

「確かに一人だけ反対してたね…」

「えっ…和原まで…??」

 

 俺がとめたことを言えば今度は二人が阿賀谷側に行く。そして三人が口をそろえて強調をする。みてみろ、唐突の統率に対して陽灯がドン引きしてるじゃないかよ…。そんな目で三人を見つつ、俺は、陽灯に効きたいことを聞いた。

 

「俺は俺で聞きたかったんだけどさ、陽灯は何でこの旧校舎にいるんだ?ソウタも一緒だし」

「あ、実はね。この旧校舎がソウタのお散歩ルートなんだ」

「は?」

 

 

 予想外の返答に俺の口は開いたまま塞がらなかった。それは隣にやってきていた和原も一緒だったようだ。

 

「…こんなとこをか?」

「毎日来てんの!?

 

 俺の言葉を遮るように阿賀谷が食いつく。それはそうだ。もしかしたらこれからの陽灯が放つ一言で今回の検証が終わってしまうかもしれないからだ。それに対して陽灯が首を横に振る。

 

「ソウタの気分次第で来たり来なかったりだよ」

「っっっはぁぁあああああよかったぁぁぁ…」

「そんなに安心するのかよ」

「にしても、何年前からここを散歩するようになったんだよソウタ…ア、オコッテンナ…ゴメンナ…」

 

 安堵する阿賀谷の隣で、陽灯に言われたことをすっかり忘れソウタにまた触ろうとする須見田。速攻、コラと陽灯に叱られながらも知らんぷりをするソウタをみてさらにシュンとした。和原が残念だったねと須見田の肩を叩く。

 

「あ」

 

 そんななか阿賀谷が両手でぽんと何かを思いついたポーズをする。俺たちはそれぞれそれに首をかしげ質問をする。

 

「どうしたんだよ」

「なぁ、陽灯が良かったらなんだけどさ。俺らと一緒に怪談検証しないか?」

「!?

「え?っ一緒に…?」

 

 突然の提案に驚く俺たち三人と、きょとんとした表情で疑問を投げかける陽灯。そんな俺たちを無視して阿賀谷は言葉を続ける。

 

「ちなみに俺は人数が増えても大丈夫!大人数の方が面白いじゃんか!どうだい?陽灯、豪華なお散歩にしないか?」

「待てや阿賀谷!突然久しぶりとはいえ見た目が360度変わってしまっている同級生となにかするってんのは難しいぞ!というかソウタ見ただろ?メッチャなつかない」

「俊、それなら180度な」

「ぐうっ…」

 

 勢いよく阿賀谷に否定の言葉をぶつけるが、冷静に間違えていった言葉を指摘され、うなるしかできない。陽灯とはいうと、何やら真剣に考えていた。和原が声をかける。

 

「竹本くん?」

 

 その言葉にも反応しないほど考えていた陽灯は、急に顔を上げてこちらを見る。その行動に俺も口を締めてしまった。

 

「…阿賀谷がそういってるなら、ついて行こうかな…ちゃんとソウタは噛まないように言い聞かせるからね」

 

 溜めていた彼の口から出た言葉に対し、阿賀谷が喜び、須見田が手を合わして拝み、和原が「おお」と感嘆詞のみあげ、俺が言葉を失っていた。陽灯といえば、こんなに詰め寄られても断ることが多かったのだ。まぁ昔と今じゃ変わると言うけれど…変わりすぎだろう…。

 

「いいかな」

「良いに決まってんじゃん!行こうぜ!次はトイレの花子さんを調べる予定なんだ!」

「ソウタを眺めさせてくれるだけでもご褒美だぜ~陽灯ぉぉぉぉ」

「改めてよろしくね、竹本くん」

 

 俺を置いてけぼりにして、皆は理科室を出て先へ進んでいく。理科室に一人残された俺は頭を悩ませる。

 

「はァ…」

 

 そんなときだった。

 

 

ほ……の…や…から……あ……のた……をもっ…き……ださ……

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

 

 

 

 

 

声のした方に向こうとしたその瞬間に、その声をかき消すほどの大きさで阿賀谷が叫んで俺を呼ぶ。

 

「俊!早く来い!」

「っわかったよ…全く…」

 

 

 

 その言葉は、なんだか馴染みがあるように感じながらも、俺は、皆を追いかけるようにして理科室をでた。