──西にある二人のお話。

 

 

 

 

 

 

「乃明!!」

 

とあるスーパーの入り口付近で、深い赤色の髪をなびかせた青年が名前を呼んだ鮮やかな紺色と赤みが強い紫色の青年の元に駆け寄る。今の季節は冬が終わりに近づいているころ。そろそろ、お互い別のリーグで戦うときだ。最終節が終わり合宿も終わって試合がないこの時期は、一緒に過ごす。

 

「さっきね、頼河からお餅をもらったんだよ!」

「わ、まじか。お餅買わなくてすみそうだな…じゃあこの分は好きなモノ買っていいからな」

「ほんとか!!」

 

派手な髪色の二人に事情の知らない通行人が驚き振り向く。だがそこから絡まれることはない。もちろん、その容姿に対して文句を言う者もいない。

──地元の人に至ってはこの二人がこの時期に並んで買い物をするのは珍しくないものになっているからだ。

 

「そんな頼河さんは渡すのにわざわざここまできたのか?」

「それ、僕も言ったんだけど。なんでわかったの?僕が言ったこと」

「いや俺エスパーじゃないし…こういうとこは全く変わらず合っちゃうんだな…意見」

「嫌じゃないけどなんかつまんないや…違うんだって、初戦が泰蜜くんだから挨拶がてら鏡香さんと山口に宿泊。らしいよ」

「あ、そういやそうだったな…あいつから聞いてたのに忘れてた」

 

会話をしながらメモに書かれているモノをカゴの中に入れていく。白菜、豚肉、椎茸…。おこたのお供にと買う予定の和菓子を取りにお菓子売り場に着いたとき、乃明がふと神司に向き直る。

 

「…また髪型かぶってたな」

「…何で言わなかったこと言っちゃうんだよ乃明黙ってたのに」

 

二人とも髪をそれぞれ楽なように結んでいるが、偶然髪型が一つ結びだった。長さは違えど、服装も似ているところがあるため端から見ればこれは仲のいい双子か兄弟に見える。実際、そんな感じの関係ではあるので仕方がないと割り切っていた。

 

菓子を選びながら、神司が乃明に言った。

 

「ねえ、乃明。いつになったら、乃明と本気で戦えるの?」

「…それは」

 

 

 

 

 

 

 

(俺が追いつくまで)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言いかけた言葉を飲む。

 

 

 

 

 

 

 

ずっと思っていたことだ。離れたあのときから、二人になったあのときから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…あのときっていつだ?

 

 

 

 

「(…正直、今の俺自身が弱いからだ。めきめきと伸びていくあいつ神司に、俺が、怯えている)」

 

 

 

黙って菓子を選ぶ振りをする。見破られているだろう。こういうときの神司はえらく鋭い。

 

「ねえ、乃明。ねえってば」

「…いつか、な」

「えええ!」

「声が大きいぞ、静かに。ほら今日はこのえびせんにしよう」

「えびかあ…海鮮せんべいミックスがいいなぁ」

「はいはい」

 

 

 

 

「(これから、みんなの力で上に行けたとして、あいつはどんな顔で俺を迎えてくれるんだろう)」

 

 

 

そんな感情がいつも頭から離れない。だけど。

 

 

 

「(まぁ、笑ってくれるのは確実だろうな)」

「は?なんで笑ってんの?すごく不審者だよ乃明」

「は?笑ってなんかねーし。神司の気のせいだって」

「気のせいに見えないから言ったんだけど?」

「気のせいだってば」

 

 

二人は次買うものを選びに置かし売り場から離れていった。

乃明と仲のいいあいつは今は同じフィールドにいない、自分もそうなってしまうと思えば。

 

「(俺はいつまで経っても、って感じだな)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ、白い羽が舞ったような気がした。