第二話 クロイセカイニ
キーンコーンカーンコーン…
「真弥 >しんや君帰ろ?」
「春野さん、学校で真弥って呼ぶのやめてくれよ…あといつも僕と一緒に帰らずに他の女子と帰ったら…」
「え~、別々で帰っても結局目的地は同じなんだから~」
「…………」
僕、酉津真弥(とりつしんや)はひょんなことから転校生である春野杏子(はるのあんず)さんと暮らすことになった。同居といっても親もいるため、一人家族が増えただけでたいして変わらない生活だ。しかし最近の土日は春野さんと遊ぼうとしてうちに押し掛けてくる女子が増えている。
「…わかったよ、帰ろう…」
「やったー!!」
ため息をつく暇もない。転校してから三日間、僕と春野さんはクラスメイトを始め全校から関係を聞かれた。同居についての噂が流れていたらしい。今日もまた周りがざわつく。
「春野さんまた酉津君と帰るんだ…」
「あんなやつのどこがいいのかな、春野さんは絶対酉津よりも濶馬(かつま)先輩と帰る方が似合うけどなぁ」
濶馬先輩…桝濶馬(ますかつま)、一個上の先輩で勉強、スポーツ、どれにおいても完璧というよくマンガに出てくるような人である。実際桝先輩は交際ということを好まず、毎日学校を青春している。が、校内では誰が桝先輩と付き合うかと論争をしている。現在はどうやら春野さんが桝先輩と付き合うのが似合うと話が大きくなっている。
「ゴメン、前言撤回する。今日は図書館によるから先に帰ってくれないか?春野さん」
「何の用事?」
「秘密だ、ほら帰った帰った」
僕は春野さんを突き放すように手を振った。春野さんはただの他人だから…交際していると思われたくなかった。
「…真弥君、なんで」
「っ…」
だっ
春野さんの言葉を無視して、僕は教室を飛び出した。このまま彼女といたら絶対行けない…そう感じた。
「真弥君…」
「ねぇ杏子ちゃん!!今日の学活の話なんだけど!!」
「え?なに?」
図書館にいってもすることがなく、学習室で辞書を開いたままぼーっと過ごした。パラパラっと辞書を流し読みしたり参考書を眺めたり…時間は無駄になっていく。
「……帰ろ」
ガタッ
僕は席を離れ、出口に向かった。その時、妙な香りを感じた。
「(な…なんだこの匂い…)」
枯れた草木の匂いが何故図書館の中でするのか…わからなかった。すると突然、自分の前が暗くなった。先ほどの図書館の面影はなく、真っ暗な世界が広がっている…。
「どういうことだ…」
辺りを見回す僕の背後でなにかが動いた。黒い塊…そうみえる物が僕に向かって攻撃してきた。
「なっ…なんなんだよ!?うわっ!!」
目を瞑った瞬間、僕はさっきいた図書館の入り口に戻ってきていた。目を開いた時に足元を見ると桜の花びらが落ちていた。
「…………何だったんだ?」
ガチャ
「ただいま…」
「おかえりなさい真弥君!!ねーねー修学旅行の班一緒にならない?」
「えっ」
玄関で待ち構えていた春野さんが話題をふった。帰ってきて早々そんな展開いらない…僕は不機嫌気味に顔をしかめた。でも春野さんは話を続けた。
「帰りにクラスの人から聞いたんだけど…男女3人ずつの班で沖縄修学旅行に行くんだって!今女の子は決まってるから…」
「ほ、他を当たってくれ(汗)」
「えー!真弥君がいた方が私落ち着くもん!!知り合いが一人もいないのはいやだよ」
「春野さんが思っていることは十分わかるんだけど僕が困るんだって…学校中で噂になっているんだよ?僕ら付き合ってるって…」
きっぱり理由もいった、これで大丈夫だろうと思った。でも彼女の解答は僕の思った斜め45度を上っていった。
「えっそれむしろ好都合な言い訳じゃない♪それいいじゃない♪」
「待ってって!!だから僕が困るんだってば(汗)」
「そうみたいだけど別にこのままそれでもいいんじゃない?決まりね♪」
「…(汗)」
ダメだ、押そうとも押され返される…結局僕は春野さんに(強引に)決められてしまった。僕は女の子の圧しとやらに弱いのかな…。
昨夜からの延長線上でそう思いながら、教室に行くと。
「おい酉津…お前春野さんに指名されて一緒のグループになったんだって?」
突然、僕の目の前に同じクラスの篠屋睦月(ささやむつき)が現れた。彼とはあまり接点がない。しいて言えば、クラスのボスなんだろう。ケンカは強いほうだ。
「篠屋君…そうだけど……っむぐ!!」
口を開いた瞬間、僕は篠屋に胸ぐらを捕まれた。殴り合いのケンカはしないから戸惑う。
「てめえ勝手に決めたのかよ…隣の席だからって調子乗んなよ!?」
勘違いされてる。完璧に…どう考えていても春野さんが100%強引に決めているから見ている側からすればカレカノ状態だ。否定しても反論しても成す術がないけど。
「偶然隣になっただけだし、全部春野さんから話題を持ちかけてくる。僕は望んでない………」
「んな言い訳通じるか」
バコッ
不意に頬に痛みが走った。体が飛んでいきそうになった。瞬時に悟った。殴られた―…。
「お前計画性あるもんな、それで嘘ついてんだろ、答えやがれ!!」
ゲシッ
バキッ
「っかは…」
めちゃくちゃに殴られる、めちゃくちゃに蹴られる。何で僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。僕がまばたきした瞬間、目の前が真っ暗に広がった。いつのまにか篠屋の姿が真っ黒いもやもやに変わっていた。
「っ!!なんだ…」
どうやら篠屋に取り憑いていたらしく、そのもやもやは篠屋に変化した。
「篠屋…くっ!!ぐぁっ!!」
キリキリ…
篠屋の形をしたもやもやは突然馬乗りになり、僕の首を絞め始めた。今の状況がわからず、抵抗をする僕。黒いもやもやは手に力を込める。ダメだと諦めかけたその時だった。
「避けて」
ヒュッ
トスッ
「がぁあ!!」
どこからか矢が飛んできてもやもやを刺した。馬乗りになっていたもやもやは苦しみながら僕から遠退き、消えていった。今の状況が把握できずにまばたきした瞬間、僕はいつも居る教室にいた。目の前にいる篠屋は目がうつろになり、そのまま仰向けに倒れた。
「げほっごほっ…ごほっ…」
「お、おい酉津、大丈夫か!?」
朝のホームルームが始まる前だ…みんなが僕等の周りにいる。春野さんは、いなかった。
あの声…鋭かったけど僕は思った。春野さんの声だった―――――……